「問題 vs われわれ」
ホワイトボードやアナログでタスク管理をする際に、よく出てくるキーワード。
「問題 vs われわれ」
いま、現場で起こっている問題をチーム全員で倒していくという構図をつくること。
例えて言うならモンハンでモンスターを狩りにいく構図と同じというとわかりやすいだろうか。(ちなみにモンハンやったことない)
決して、「あなた vs わたし」の対立構造で、問題の犯人探しや責任の追求・押しつけ合いをするわけではない。
ホワイトボードでのコミュニケーションの優位性は、アジャイルソフトウェア開発(p.124)のアリスターコバーン氏の「コミュニケーションの効果」の図が有名ではないだろうか。
「ホワイトボードに向かった2人」が、コミュニケーションという「場」において、ほかのスタイルよりも効果が高く温かいと言っている。
多くの人は、この構図の元となるスキルを、言葉を話すことができない乳幼児頃(生後9か月)から手に入れ始めるらしい。
そのスキルのことを「共同注意」というらしい。(脳科学辞典より)
共同注意と三項関係
共同注意とは、対象物に対して、他の人と似たような認識をするスキルと言ってもいいんじゃないだろうか。脳科学辞典の定義は下記の通りだ。
定義:共同注意とは、他者の注意の所在を理解しその対象に対する他者の態度を共有することや、自分の注意の所在を他者に理解させその対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動を指す。
そして、これらの関係性を「三項関係」という。
二項関係では、乳児は物体を操作している時に近くに人がいてもそちらに注意は向かず(図A)、人と関わりあっている時は近くに物体があってもそちらに注意が向かない(図B)。一方、三項関係では、乳児は物体を意識するだけでなく、同時に大人がその物体に注意を向けていることを意識するようになる(図C)。
(脳科学辞典より)
例:「バナナを見ること」を例にして考えてみます。共同注意が成立しているということは「お母さんがバナナを見ている」そして「お母さんとおなじように私もバナナを見ていると気づいている」という状態のことです。
そして、共同注意を向けさせる方法は2つに区分できると。
「命令的共同注意」と「叙述的共同注意」
1. 命令的共同注意
自分が欲しいものを他者に伝えようとする要求の指差しなどの行動である
(例:手の届かない食べ物を指差す)
2. 叙述的共同注意
自分が他者に見てもらいたいものを他者に伝えようとする叙述の指差しなどの行動である
(例:遠くを飛んでいる飛行機を指差す)
相手の心的状態の推測をより必要とすることから高度な社会的認知能力が関わる
(脳科学辞典より)
朝会やふりかえりなどで付箋紙を使いながら、メンバーの目線を付箋紙に集めるときを思い出してほしい。
どちらかの意図が含まれているのではないだろうか?
ファシリテートする際に、助けを求めるためだったり、課題感を共有するためだったり、共感を促すためだったり、その背景は少しずつことなるだろう。
あ、スーパーマンだ!指をさすとみんながそっちを向くように、付箋紙を指でさし示すということが重要なんだ。
乳幼児期から手に入れているのに、ホワイトボードの前では、できてない現場が多いのではないだろうか。
心理的安全性
しかし、誰かに怒られる、上司に悪い評価をされるという「場」では共同注意を促す行動や表明は難しいだろう。
安心して、指差しをするためには、心理的安全性が重要になってくるわけだ。
心理的安全性をGoogleで検索すると下記のような定義がトップに出てくる。
「心理的安全性」とは、英語のサイコロジカル・セーフティ(psychological safety)を和訳した心理学用語で、チームのメンバー一人ひとりがそのチームに対して、気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられるような場の状態や雰囲気をいう言葉です。
Googleのre:Workが有名であり、またアジャイル界隈ではJoshua Kerievsky氏のモダンアジャイルの「安全を必須条件にする」にも同じ概念が通じる。
こういったことが文化として根付いていることがソフトウェア業界だけでなく、創造性高く、モチベーション高く仕事をしていく上では欠かせないだろう。
創造的なパフォーマンス志向の組織
それを後押しするように、書籍LeanとDevOpsの科学(P.40)には、協力体制と情報伝達と責任に関して、このような特徴が記載されている。
不健全 or 官僚的 or 創造的
あなたは、どんな組織文化で働きたいだろうか?
- 不健全な権力志向の組織
- 官僚的なルール志向の組織
- 創造的なパフォーマンス志向の組織
私は間違いなく、3番目。図の中の一番右だ。
協力体制が確立し、情報伝達に熟達し、リスクを共有する組織文化。
この状態になるためには、共同注意や心理的安全性が重要な要素になっていくだろう。
しかし、組織文化は1日では変わらない。地道にいろんなプラクティスや共感やスキルUPに時間をかけて投資していくしかない。理論と実践とを繰り返しながら。自分たちで発見していく旅。
組織内で理想をかたり、ビジョンをかたり、価値観を表明しあいながら。
最後に
共同注意は生後1年弱から身につけはじめていくスキル。その他にも、こどもの頃に身につけることや親から教えられることが多くある。
- 何かをもらったらお礼を言うこと
- 悪いことをしたら謝ること
- 外から帰ってきたら手を洗うこと
- 自分は害がない人間であると表明するために握手や言葉で自ら挨拶をすること
単純だからこそ大人になっても忘れてはいけないことなんだと思う。
しかし、私自身は、それを他人に押し付けるつもりはなく、ただ、ただ、堅苦しくなく、相手にもそれを感じさせることがないように自然にできるような人になっていたい。
イキイキと人間らしく創造的に社会に貢献するために、これからも組織文化を考えて行きたい。
創造的なパフォーマンス志向の組織を、心理的安全性のもと、共同注意を。
まずはアナログのホワイトボードや付箋紙を使いながら朝会やふりかえりのプラクティスと一緒に。
アジャイルやスクラムはその入り口を与えてくれる。
先人たちやコミュニティーの仲間から教わったり、それを次の世代に伝えたり。
ひとりでも共感している人が世界にいることを信じて。もう少し、あと少し。一歩ずつ。
数年後、世界から心理的安全性という概念が消えるくらい当たり前に。
「昭和や平成の時代には、そんな不健全で官僚的な組織が普通だったんだね。歴史の授業で習ったよ」と次の世代が安全である恩恵を受けられるように...ポエム。
このエントリーは『DevLOVE Advent Calendar 2018 』の23日目(2018年12月23日)の記事でした。
参考
このブログ記事を書くにあたり下記から引用させていただいた。
- 書籍:アジャイルソフトウェア開発
- 書籍:LeanとDevOpsの科学
- 脳科学辞典:共同注意
- 脳科学辞典:三項関係
- 共同注意とは?アイコンタクト・指さしと子どもの発達の関係、自閉症との関連、発達を促す工夫をご紹介!
- 共同注意とは?赤ちゃんの指差し、言語発達、自閉症との関係、共同注視との違い
- 「心理的安全性」とは? - 『日本の人事部』
- re:Work
- モダンアジャイル